恋時雨~恋、ときどき、涙~

こんな不良品を身に付けているわたしに、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた、この人に。


健ちゃんと、目が合う。


わたしはにっこり笑った。


〈わたし、なれるかな?〉


ゆっくり、健ちゃんに伝わるように手話をした。


〈わたしでも、健ちゃんの、いちばん大切な人に、なれる?〉


健ちゃんのくっきりとした奥二重瞼の奥に潜む黒目が、大きくなった。


「ごめん。もう1回」


〈耳が聴こえないわたしでも、あなたの、いちばん大切な人に、なれますか?〉


自分の手が狂ったように震えているのが分かった。


健ちゃんは目を大きくして、ぽかんと口を開けている。


手話、伝わってるんだろうか。


もう一度、同じ手話をしようとしたわたしの手を、健ちゃんが掴んだ。


「な……なれる! なれるんけ」


健ちゃんはこぼれんばかりの笑顔で、わたしの腕を乱暴に振った。


それから、波打ち際まで駆けて行き、何もせずにすぐ戻ってきた。


健ちゃんが、肩で息をしている。


「真央が、好きだんけ」


あっけらかんとして笑うこの顔が、わたしは好きだ。