恋時雨~恋、ときどき、涙~

目を丸くして固まるわたしに、健ちゃんは苦笑いをした。


「ごめん。さすがに、しつこかった。ごめん」


健ちゃんは、わたしからあからさまに目を反らして「暗くなってきた。帰ろう」と言った。


健ちゃんが砂浜をすたすたと歩いて行く。


その大きな背中を見つめて、わたしは立ち尽くした。


それでも、健ちゃんは早足でそのまま行ってしまおうとする。


わたしは、手に握っていた赤ちゃんライオンのストラップを握り締め直した。


今を逃したら、後がないかもしれない。


時が絶てば経つほど、わたしは何も言えなくなる。


絶対、伝えられなくなる。


わたしの足は、その背中を追い掛けていた。


半袖シャツから伸びた健ちゃんの腕を掴んで、強く引っ張った。


健ちゃんが、びっくりした顔で振り向いた。


うさぎが、飛び跳ねる。


100匹。


違う。


1000匹。


違う、違う。


10000匹。


もっと。


息が止まってしまいそうだった。


膝がガクガク笑っていた。


でも、息が止まる前に、この気持ちを伝えよう。


そう思った。