恋時雨～恋、ときどき、涙～

「意地っ張りだんけ」


健ちゃんがムッとした顔で、手話をした。


「もう少し、素直になりやがれ」


〈余計なお世話〉


わたしは膨れっ面で海を見つめた。


夕陽が沈んでしまった。


寂しくてがっかりしているわたしの目の前に、健ちゃんが立ちはだかった。


大きな両手が、わたしの顔の前で動く。


「やっぱり、５０年に変更だんけ」


思わず、吹き出して笑ってしまった。


〈じゃあ、４０年後に返事する〉


わたしが言うと、健ちゃんは「しまった」と間抜けな顔をした。


「しょうがねんけな。待つ。真央と付き合いたいから」


潮風が、わたしの頬を優しく撫でた。


「好きで、苦しんけ。真央が、他の男を好きになるのは、嫌だんけ」


体中の皮膚が、ちくちくした。


頭がくらくらする。


わたしは、海の潮風に酔っ払ってしまったのかもしれない。


たぶん、今、わたしの顔は熟れたりんごのように真っ赤になっているに違いない。


頬が、茹だっているように熱い。


好きで、苦しい。


そんな事を言ってもらえたのは、勿論、初めてだった。