恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈ひどい! 何で、こんな事するの?〉


睨みながら、わたしは感情任せに両手を動かした。


〈最低!〉


ライオン丸は、大きな口を開けて笑った。


「何が言いたいのか、さっぱり分からんけ」


ハッとした。


わたしは、それ以上、何も言い返す事ができなかった。


手話、分かるわけないか。


ライオン丸はわたしに背を向けて、ずっと向こうの水平線を指差した。


仄明るい黄昏時の水平線の縁に、朱色の果実が消えかけている。


上空におぼろげないちばん星がぽつりと浮かんでいた。


輝きはまだ強くなく、本当に小さく見えた。


ライオン丸はわたしの肩を叩いて、また水平線を指差し、唇をゆっくり動かした。


「あんな感じ?」


わたしは難しい顔を作って、首を傾げてみせた。


ライオン丸が言った事は理解できた。


でも、その意味が分からなかった。


ライオン丸はとてもやわらかいわた飴のような微笑みで、わたしを見つめてきた。