恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんが、ひまわりのような笑顔になった。


「さすが。おれは天才だんけ」


八重歯がこぼれる。


でも、へたくそな手話だ。


わたしは、健ちゃんの肩を小突いて〈へたくそ!〉と笑ってやった。


なんだとー、と健ちゃんがわたしを捕まえようとする。


それをひょいと交わして、わたしは笑った。


「すばしっこい女だんけ」


〈へたくそ!〉


「くっそー! 1ヶ月、みっちり頑張ったのに」


〈へたくそ!〉


「あと1ヶ月まって。したら、もっとうまくできるようになるんけ」


どうして、この人は、わたしなんかのために一生懸命になってくれるのだろう。


〈ありがとう〉


お礼の手話をすることで、わたしは精一杯だった。


嬉しくて、嬉しくて、少しだけ切なかった。


泣いているわたしに、健ちゃんはへたくそな手話をした。


「これからは、もっと、たくさん話をしよう。真央のいちばん大切なひとに、してください」


もっと、たくさん話がしたい。


わたしも、健ちゃんのいちばん大切な女の子になりたい。


胸が締め付けられた。


でも、わたしは首を振った。