恋時雨~恋、ときどき、涙~

見ていられないくらい、ちぐはぐな手の動きだった。


「手話、覚えれば、もっと、真央が笑ってくれると思って。頑張った」


覚えたての手話と、少し遅れて動く健ちゃんの唇。


「手話、読むことはできるんだけど……まだ、全部は覚えてなくて」


下手くそな両手の動きと、上手な唇の動き。


「へたくそで、ごめんな」


と健ちゃんが言った。


へたくそだね。


でも、そんなことない。


わたしは首を振って、泣き続けた。


泣いているわたしの肩を、健ちゃんが叩く。


「見て。指文字も少しできるんけ」


健ちゃんの右手の指が、ぎくしゃくしながら動く。


人差し指、中指、薬指を少し離して伸ばし、下に向ける。


アルファベットの「M」のように形を作る。


「ま」


5本の指を丸めて、数字の「0」を作る。


「お」


ま、と、お。


わたしの名前だ。


「あってる?」


健ちゃんが不安気な面持ちで、わたしを見つめる。


わたしは頷いてから、微笑んだ。