恋時雨~恋、ときどき、涙~

いっせいいちだい?

勝負?


じゃんけんでもする気だろうか。


健ちゃんの笑顔は、バックの水面に乱反射する夕陽よりも、極めて眩しかった。


「間違ってたら、ごめんな。でも、どうしても伝えたくて」


そう言って、健ちゃんは右手の人差し指でわたしの顔を差した。


「真央の」


健ちゃんの唇が、そう言った。


わたしは、健ちゃんの唇と両手をじっと見つめた。


右の頬を2回、軽く擦るように撫で回して、健ちゃんは人差し指で『人』という字を空書きした。


「真央の、いちばん、たいせつな人に」


泣くつもりは、一切なかった。


健ちゃんは、親指と人差し指を開いてのど元を挟むように当て、前に出しながら閉じると、大きな口で言った。


「なりてんけ」


わたしは、目を閉じた。


瞼の裏に、たったいま見たばかりの残像がこびりついて、剥がれそうもなかった。


「真央の、いちばん、大切な人に、なりたい」


健ちゃんが、初めてわたしにしてくれた手話だった。