恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、健ちゃんの唇から目を離すことができなかった。


「でも、それは同情じゃねんけな」


そう言って、健ちゃんはわたしに背を向けて、黄昏色の海を見つめた。


両手を広げて、深呼吸をしているようだ。


振り向き様に、健ちゃんが言った。


「本気だんけ。おれ、真央専属のライオンになる」


ライオンに?


「ガオー」


何度も何度も、ガオーと叫びながら、健ちゃんはわたしの回りを駆け回った。


20歳にもなって、なんて無邪気な人なんだろうか。


限度ってものがあるだろうに。


子供のように無邪気に、わたしの回りをぐるぐる駆ける健ちゃんが可笑しくて、笑ってしまった。


3、4周した時だろうか。


突然、健ちゃんはわたしの正面に立ちはだかった。


健ちゃんの瞳は、やっぱり真っ直ぐだった。


健ちゃんが大きな両手のひらを上に向けて、わたしに突き出してきた。


何をしようとしているのか、何がしたいのか、わたしには分からなかった。


首を傾げるわたしに、緊張した面持ちで健ちゃんは言った。


「いっせいいちだいの、大勝負だんけ」