恋時雨~恋、ときどき、涙~

今まで、何も考えずにこんな事を平気でやっていたのか。


そう思うと、恥ずかしかった。


最低だ。


まさか、こんなにも痛いものだとは思っていなかった。


叩かれた右手よりも、とにかく、心が痛い。


わたしは、右手を左手でそっと包み込んだ。


健ちゃんが、わたしの顔を覗き込んできた。


「痛いか?」


痛い。


わたしは頷いて、心臓を押さえた。


やっぱり、痛い。


「おれも」


健ちゃんも、心臓を押さえていた。


「そんなに違うか? 耳が聴こえない事と、聴こえる事って、そんなに違うか?」


違うよ。


全然、違う。


わたしは、頷いた。


「どこが?」


健ちゃんが顔を歪めた。


「おれと真央って、そんなに違う?」


違うよ。


見れば、分かるじゃない。


こんなに、違うじゃない。


わたしは何度も何度も頷いて、健ちゃんを睨み付けた。


「違わねんけ」


健ちゃんの瞳は真っ直ぐで、必死に訴えかけていた。


たぶん、大きな声を出したのだろう。


大きな大きな口から、八重歯が鋭く尖って見えた。


「真央が望むなら、音になる。真央が望むなら、声になるんけ」