恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、健ちゃんの手をぶっきらぼうに払った。


【分かりたいなら、耳を切り落として、わたしにゆずってください
 できる?
 できないくせに】


くだらないバカみたいな事を殴り書きしたメモ帳を、健ちゃんの顔に投げ付けてやった。


健ちゃんは、砂の上に落ちたメモ帳を拾い、そのページを見て溜め息を落とした。


怒ってしまったのだろう。


さすがに愛想を尽かされたに違いない。


そう思っていたのに、健ちゃんは怒った顔をしていなかった。


ただ、悲しい顔をした。


「何だよ、これ」


肩を落とした健ちゃんをたたみかけるように、わたしは両手を動かした。


何を言っても、どうせ、健ちゃんは手話なんて分からないのだから。


〈できる?〉


だから、どんな事を言っても大丈夫だ。


〈できないよね? 結局、きれいごとなんだよ。わたしを分かりたいなんて、きれいごとだよ〉


健ちゃんはあまり表情を変えずに、少しだけ目を細めた。


分からなくて、困っているくせに。


それなのに「分かりたい」だなんて。


ばかばかしくて、笑ってしまいそうだ。