恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは首を傾げながら、ライオン丸の唇を見つめた。


「こ、れ」


ライオン丸が差し出してきたのは、白いスマホだった。


マイメロディのストラップが右に左に揺れている。


わたしの物だ。


わたしは、慌ててスカートのポケットに手を突っ込んだ。


ない。


車に戻ろうと走った時に落としてしまったらしい。


わたしは、ますます慌てた。


半分ほど開いているウインドウから右手を伸ばして、それを奪おうとした。


でも、ライオン丸はわざとらしくその手を引っ込めた。


「可愛げのない女だんけ」


そう言って無邪気に笑った口元から、白い八重歯が溢れている。


わたしはライオン丸を睨み付けて、車から乱暴に飛び出した。


詰め寄り、スマホを奪い返そうとした時、ライオン丸は砂浜にひょいと飛び降りた。


「返して欲しいなら、ありがとうくらい言ってみろ」


そう言って、ライオン丸は波打ち際に向かって駆け出した。


おちょくられてしまった事に気付いて、わたしはその背中を追い掛けた。


こう見えても、足には自信がある。


負けるもんか。


その大きな背中に追い付くや否や、わたしは背後からスマホを乱暴にひったくった。


振り向いたライオン丸は、驚いた顔で言った。


「足、速い女だんけ」