恋時雨~恋、ときどき、涙~

知りたい、じゃなくて、分かりたい。


分かりたいって、何を。


耳が聴こえる健ちゃんに、わたしの何が分かるもんか。


別に、分かって欲しくもない。


わたしは、そんなに可哀想なんだろうか。


健ちゃんは、手話が分からない。


だから、わざと手話をした。


〈分かってほしくない! わたしの気持ちなんて、健ちゃんには、分からない。絶対に、一生〉


案の定、健ちゃんは目を点にして、わたしの両手をじっと見つめていた。


ほら。


手話も分からないくせに。


わたしは、いらいらしながらメモ帳に書いた。


【きれいごとばかり】


そのメモ帳を押さえ付けて、健ちゃんはムッとした顔をした。


「じゃあ、真央は? おれの気持ち、分かるのか?」


分かるわけがない。


「最初から、相手のこと分かるやつなんか、ひとりもいねえよ」


当たり前だ。


でも、もしも、話す事ができるなら。


この人の声を、この耳で聴く事ができるのならば。


少しは、分かることができるのに。


わたしは、ボールペンを握り締めた。