恋時雨~恋、ときどき、涙~

でも、夕陽が眩し過ぎて、その唇を読み取ることができない。


何かの糸で引っ張っられるように、わたしは歩き出していた。


ジッポライターを返そうとして差し出すと、健ちゃんは「やってみ」と言って笑った。


ジッポライターを指差し、蓋を親指で弾くようなジェスチャーをしている。


「ほら、やってみ」


わたしは、いつも健ちゃんがやっているのを思い出して、親指で蓋を開いた。


びっくり箱じゃあるまいし。


中は、至って普通だった。


オイルの匂いがする。


わたしがしかめっ面をすると、健ちゃんは辺りを見渡して、近くに落ちていた木の棒で砂に書いた。


【キイーン】


意味が分からない。


わたしは、首を傾げた。


「ジッポ。開くと、キイーンて音がするんけ」


わたしは目を大きく開いて、ジッポライターを見つめた。


そうなのか。


こんな小さなライターにも、音があるのか。


またひとつ、音を知った。


キイーン。


顔を上げると、健ちゃんが微笑んでいた。


「真央のこと、分かりたい」


わたしの頭に、マグマのような熱い血がのぼった。