恋時雨~恋、ときどき、涙~

また、こうして、この人と波打ち際を並んで歩けるとは、これっぽっちも思っていなかった。


後ろ歩きをしながら、健ちゃんは大きな口で言った。


「元気だったか?」


わたしは微笑んで頷いた。


「そっか。おれも、元気だった」


良かった。


健ちゃんが元気だったと知って、嬉しかった。


わたしは、メモ帳を取り出した。


【波の音、きれい?】


健ちゃんは、黄昏色の水面を眩しそうに見つめて、頷いた。


「メモ帳、かして」


そう言って、わたしからボールペンを奪って書いた。


【ザー…】


点、が3つ付いている。


わたしは、その点を指差して首を傾げた。


「ザーって、それから、消えるから」


消える、音。


それは、どんな音なのだろうか。


「ザー。ザザー。それで、一瞬、音が無くなる」


【きいてみたい】


メモ帳にそう書いてわたしが微笑むと、健ちゃんは急に真剣な目つきになって私の腕を優しい力で掴んだ。


健ちゃんの口がゆっくり動く。


「真央に話があって。大切な話」


そのあまりにも真剣な目に、反射的に頷いた。


「果江と、電話で、話したんだ」