恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、健ちゃんの手を振りほどいて、睨み付けた。


「時間がねんけ。夕陽が沈む前に行かないと」


どこに行こうとしているのだろうか。


健ちゃんは、えらく急いでいる様子だ。


わたしは、鞄からメモ帳を取り出した。


「あー! そんな事してる時間ねんけ。とにかく、乗って」


健ちゃんは、わたしからメモ帳をひったくり鞄に押し込んで、わたしを助手席に押し込んだ。


わたしは、わけが分からないまま、シートに深く沈んだ。


健ちゃんの車の中は以前と変わらず、きれいに整頓されている。


ただ、ひとつだけ、変わったことがあった。


耳だ。


健ちゃんの左耳に揺れていたピアスが外されている。


健ちゃんが、わたしの肩を叩いてきた。


「飛ばすんけな。時間ねんけ」


わたしの返事を待たずに、健ちゃんはアクセルを強く踏み込んだ。