恋時雨~恋、ときどき、涙~

右から、ぬるい潮風が入ってきた。


振り向くと、運転席のドアが開いていて、順也が笑っていた。


順也の両手が動く。


「面白い人でしょ? けんたさん」


わたしは引きつった笑顔を作って、答えた。


〈へんな人だね〉


「そうだね」


と順也が大きな口を開けて笑った。


順也は、ドリンクホルダーにオレンジジュースが入ったプラスチックのコップを置いて、わたしに手話で言った。


「大丈夫? のど、渇いてるでしょ? これ、静奈から。飲めってさ」


静奈と順也の優しさが嬉しかった。


わたしは、笑って頷いた。


〈ありがとう〉


じゃあ、というジェスチャーをして、順也は去って行った。


オレンジジュースを一口飲んだ時、ライオン丸がウインドウから手を入れてきて、わたしの肩を叩いた。