恋時雨~恋、ときどき、涙~

短大は、小高い丘の上に建っている。


長い急勾配があって、下まで銀杏並木が続いている。


初夏は青々と若葉が息吹き、冬になると雪の花が咲く。


秋は金色の扇が、辺り一面を染める。


秋の風を切りながらアスファルトに落ちる金色の葉は、優しい青空に良く映える。


下る先には、古ぼけたバス停があった。


下までおりた時、幸が間抜けな顔で、わたしの肩を叩いてきた。


「見てみい。なんや、あの男。あんたの名前、叫んどるで」


そう言って、幸は真っ直ぐ先を指差した。


わたしは、まばたきを忘れてしまった。


青空をすいすい泳ぐトンビも、足早に流れる鰯雲も。


全ての時間が止まったのだと、錯覚してしまった。


久しぶりに、わたしの心臓にあの子うさぎたちが現れたのだった。


「真央! 真央!」


彼の口が、そう動いていた。


わたしの名前を呼ぶ大きな口から、鋭い八重歯がこぼれている。


無邪気なオーバーリアクションは、夏のまま色褪せていなかった。


長い腕を大きく振って、彼はあっけらかんと笑っていた。


わたしには、分からなかった。