恋時雨~恋、ときどき、涙~

「ラインやっとる? 交換しようや」


わたしは頷いて、鞄からスマホを取り出した。


わたしのラインIDを自分のスマホに打ち込みながら、幸の唇が動く。


「その男な。どうしても、手話、覚えなあかんらしいで」


〈どうして?〉


「好きな子に、伝えなあかんこと、あるらしいねん」


その、へったくそな手話をする男の人の好きな子が、羨ましいと思った。


胸が痛かった。


わたしはそんな事をしてもらった事は無かったし、あの人はしてくれなかった。


わたしが、してくれなくてもいいと言ったからなのだろうけれど。


うつ向いたわたしの肩を叩いて、幸は「はい」とスマホを返してきた。


「24時間、いつでも受け付けとるからな」


〈ありがとう〉


わたしは微笑んで、スマホを鞄に押し込んだ。


「私な、その男が目標やねん。彼氏に忘れられたとしても、絶対、諦めんて決めたんや。忘れたら、思い出させたる」


なぜ、幸は、そんなふうに胸を張って笑うことができるのだろう。