恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしはただ頷くことしかできなかった。


胸の辺りがぞわぞわして、不快感でいっぱいだった。











わたしと幸は、駅まで一緒に帰る事にした。


わたしは下りの電車で、幸は駅から徒歩15分ほどの小さな施設に向かう。


今日も彼氏のところへ行き、手話教室にも行くのだそうだ。


短大から駅に向かう途中、大通りの街路樹の下で、急に幸が吹き出して笑った。


わたしは、幸の肩を叩いて、右手の人差し指を左右に振った。


〈どうしたの?〉


これくらいの簡単な手話なら、幸にも通じた。


わたしが訊くと、幸はけらけらと楽しそうに笑った。


「私、手話教室に通ってるって言うたやろ? そこにな、へんな男がおんねん」


〈どんな?〉


「私と同じ日に入会した男やねんけど。いつまで経っても、へったくそやねん。今、ふと思い出したら、笑えてしゃあないわ」


幸が、本当にあまりにも可笑しそうに笑うので、わたしもつられてしまった。


こんにちは。


おいしい。


ありがとう。


基本的な手話を幾つかして、幸は笑いながら唇をゆっくり動かした。