恋時雨~恋、ときどき、涙~

まさか、幸が手話をするなんて1ミリも思っていなかったのだから。


わたしは、メモ帳を差し出した。


【手話できるの?】


「できん。せやけど、今、彼氏がおる施設の近くにある、手話教室に通ってんねや」


ますます、びっくりした。


【なんで?】


メモ帳を差し出しながら、わたしは幸に詰め寄った。


「真央に話したいことがあるからや。せやけど、唇が読めるとは思わんかって。手話じゃなくても、大丈夫なんやなあ」


幸は大きな口で豪快に笑った。


【話したいこと?】


わたしが訊くと、幸は「今日はやめとくわ」と苦笑いをした。


そして、都合悪そうに言った。


「今度、時間つくって欲しいねん。せやないと、話せんことやで」


わたしは、人の表情に敏感な方なのだと思う。


簡単な話じゃないだろうということは、幸の表情を見てなんとなく察した。