恋時雨~恋、ときどき、涙~

菜摘の唇が動く。


「私たち、同じクラスだね。知ってる?」


知らなかった。


いつも、静奈とだけ行動していたし、調理実習の時の同じ班の人たち以外、知らない。


「唇、読めるって本当? わ、か、る?」


わたしはにっこり微笑んで、しっかりと頷いた。


「あ、本当なんだね。なんか、うれしいかも。仲良くしようね。真央ちゃん」


そう言って、菜摘はわたしの手を握った。


少しひんやりしていて、細くて、華奢な手だ。


「で、どないしたん?」


幸が肩を小突くと、菜摘は何かを思い出したように言った。



わたしは、菜摘の唇をじっと見つめた。


でも、結局、読み取る事ができなかった。


うつ向いたわたしを、幸が小突いてきた。


「午後の講義、全部、休講になったんやて。先生が急な出張らしいで」


ラッキーや、と嬉しそうに言う幸を、わたしと菜摘は同時に笑った。


「これから、みんなでカラオケに行くんだけど。幸と真央ちゃんも行かない?」


そう言って、菜摘はあっと口をつぐんだ。