恋時雨~恋、ときどき、涙~

【おらん!】


メモ帳を見た幸は、思いっきり吹き出して笑う。


「おらん、て。真似すんなや。なんや、好きな男もおらんのか」


つまらん、と言って、幸は細い頬を紙風船のように膨らませた。


「真央は、可愛らしいと思うで。なんやろな……純粋や。そんな感じに見えるわ」


わたしは、肩をすくめた。


都合が悪かった。


純粋なわけがない。


いつも、人に壁を作り、健康な人が羨ましくて妬んでしまう。


実は、腹黒いのだと思う。


その時、突然、幸が立ち上がり校舎の方を見つめた。


玄関前で、女の子がこちらに手を振っている。


「待っときや」


幸は、その女の子に駆けて行き、わたしを指差して何かを話しているようだ。


自分の事を話しているのだと察して、わたしは気まずかった。


お弁当箱を閉じていると、目の前に幸とその女の子が立っていた。


幸と似たような服装をした、大人っぽい女の子だった。


「この子、なつみ、言うねん」


そう言って、幸は、わたしのメモ帳に【豊橋 菜摘】と書いて、女の子の肩を叩いた。


なつみ。


わたしがぺこりと頭を下げると、菜摘は小さく微笑んだ。