恋時雨~恋、ときどき、涙~

病気は治らんけど、それなら叶いそうやんか、と。


幸の横顔は、まるで、天女のようだった。


儚くて、美しかった。


【叶うよ】


本当にそう思ったから、わたしはメモ帳に書いて差し出した。


せやろ、と幸は嬉しそうに笑った。


「できるだけ、早う行きたいんや。私のこと、全部、忘れてしまわんうちに。あいつが、私を、忘れてまう前に」


幸は、彼氏の事が、大好きなんだな。


たぶん、わたしには想像できないほど。


「せやからな、今、むっちゃ頑張ってんねや。バイト。めっちゃ頑張ってんねや」


幸の笑顔は、春の満開の桜並木よりも恋の色をしていた。


でも、その笑顔の後ろに、幸の苦悩が隠れていたなんて、わたしには想像すらできなかった。


幸の無邪気な質問に、わたしは少し戸惑った。


「真央にはおらんの? 彼氏」


わたしが頷くと「好きな人は?」と、幸が訊いてきた。


わたしは、さっきよりも強く頷いて、ボールペンを握り直した。