恋時雨~恋、ときどき、涙~

【施設? どうして?】


メモ帳を差し出すと、幸が苦笑いをした。


「ちゃうわ。病気。あっちの施設でもかまへんかったんやけどな。彼氏の母親の実家がこっちやで」


カフェオレをもうひと口飲んで、幸は続けた。


「高校2年の時にな、離れてもうて。追っかけて来たんや」


幸は、少し、早口だ。


でも、はきはき動く幸の唇は、読み取りやすかった。


たまに分からなくても、わたしが首を傾げると面倒がらずに何度も繰り返し、言い直してくれた。


「頭の病気や」


若年性アルツハイマーという病気を、わたしは初めて知った。


老人の認知症と同じように、少しずつ、記憶を無くしてしまう病気ならしい。


幸の彼氏は、そういう病気だった。


記憶が、無くなる……。


わたしは空腹だった。


でも、お弁当に箸が付けられないほど、ショックを受けた。


まだ、チキンナゲットを半分かじっただけなのに、満腹になった。


「施設には、毎日、顔だしてんねやけどな。きっついわ……たまにな、私の事すら分からん日があんねん」