わたしはバスケットボールを両手に抱えたまま、順也の正面に立った。


右手の人差し指を左右に振って、首を傾げた。


〈どうしたの?〉


紅い夕陽が、順也の頬を茜色に染めている。


西の茜空を、淡いピンク色のコスモスが仰いでいた。


順也が、コスモス畑を見つめて微笑む。


「しーは、元気にしてる?」


順也が静奈の事を訊いてきたのは久しぶりの事で、少し、びっくりした。


〈元気だよ〉


わたしが返すと、順也は嬉しそうに笑って、西風にそよぐコスモスを見つめていた。


「ね、真央?」


順也が、わたしの顔を扇いだ。


「コスモス。秋の桜って書くんだよ。知ってる?」


そう言って、順也はわたしの手のひらに、秋桜、と人差指で書いた。


わたしは、頷いた。


「コスモス。しーの好きな花だ」


それも、知っている。


わたしは頷いて、そっと車椅子を押した。


でも、わたしは素直に笑う事ができなかった。


順也に、嘘をついてしまったからだ。


静奈。


今、どこで、何をしているのだろう。