恋時雨~恋、ときどき、涙~

もう一度、順也が歩けるように。


もう一度、順也と静奈の右手にリングが輝く日々が、訪れることを。


花瓶に生けていたかすみ草が、残暑の暑さでしおれかけていた。











それから、2週間後。


順也は退院した。


退院後の経過は順調だった。


今までのようにはいかなくなったけれど、以前と変わらず、同じ職場で働けることになった。


接客はできないが、事務的な仕事を専門にする事になった。


海岸線沿いのガソリンスタンドの店長さんは心の広い人で、下半身不随の順也を快く受け入れてくれたのだった。


送迎を、必ず誰かにしてもらう事を条件に。


静奈と別れた順也は、どうしても前のようには笑わなくなったけれど、ひとつの希望を見つけ始めていた。


週に2日、町の障害者のバスケットボールチームに入団したのだ。


脱け殻のように無気力な順也を、見ていられなかったのだろう。