恋時雨~恋、ときどき、涙~

順也が狂ったように泣く姿を見たのは、この日が初めてだった。


わたしは、悔しくてたまらなかった。


涙が勝手に溢れ出して、止まらなかった。


それなのに、順也の手話は、こんな時でさえ優しいものだった。


「ぼくにはもう無理だけど。真央は、見守ってあげてね」


〈何を?〉


順也は泣きながら、精一杯、微笑んだ。


「未来を」


泣いている男の人を、わたしは初めてかっこいいと思った。


順也を、宇宙一のお兄ちゃんだと、世界中に自慢したかった。


「しーが、幸せになる未来を」


静奈は、順也じゃないと幸せにはなれないと思う。


本当は、そう伝えたかった。


でも、陽射しに打たれる順也を見ていたら、ただ頷くことしかできなかった。


分かった、そう伝えるのが精一杯だった。


順也が、ペアリングを握り締めた。


「もし、また歩けるようになったら……その時は、迷わずにしーを迎えに行くよ」


〈分かった。だから、もういい〉


震える順也を抱き締めながら、わたしは願わずにはいられなかった。