恋時雨~恋、ときどき、涙~

わざわざ言わなくても、わたしには分かる。


順也が、どれくらい静奈を想っているのか。


だって、順也は、わたしのお兄ちゃんだから。


わたしは、順也の妹だから。


幼馴染み、だから。


「今朝、先生に言われたんだ。もう、歩けないって」


順也は、唇を噛んで、病衣のズボンをきつく握りしめた。


「悔しいよ」


車椅子の彼氏を持つしーなんて、想像がつかないだろ。


優しいしーのことだから、自分のせいだと負い目を背負うだろ。


いずれ離れて行くかもしれない。


彼氏をこんな目に合わせてしまった、と責任を感じて我慢するに決まってるよ。


しーには幸せになる権利があって、未来がある。


だから、別れることにした。


本当は他の誰にも渡したくないのに、こうするしかなかった。


好きだから、離すしかない。


そう、順也は言った。



もう冷めたんだと順也は言ったのに、それでも、静奈は諦めなかったらしい。


『歩けなくても、順也は順也に変わりない。私のいちばん大切な人だよ。だから、別れたくない』


でも、責任感と意思の固い順也は、妥協することができなかったのだろう。



わたしたちが18歳の、暑い夏。


清く晴れた雨上がりの日に、順也と静奈は、終わった。