恋時雨~恋、ときどき、涙~

病室のドアは、開け放たれたままになっていた。


病室に入ろうと思ったのに、わたしはすぐ行動に移すことができなかった。


朝日は空高く昇り始めていて、きつい陽射しに変わり病室の中をまんべんなく照らしている。


窓辺で車椅子に座っていた順也の大きな後ろ姿が、小さなシルエットになって見えた。


車椅子の手すりにしがみつく順也の指が、強く、小刻みに震えている。


順也の背中が、泣いていた。


わたしは静かに順也の背中に歩み寄り、そっと肩を叩いた。


順也が、振り向き様に言った。


「しー」


確かに、順也の唇は静奈を呼んだ。


でも、わたしだと分かると、順也は都合悪そうにうつ向いた。


静奈がここへ戻って来ることを、待ち焦がれていたに違いない。


「真央なら、ぼくの気持ち、分かってくれてるよね」


順也の両手が震えていた。


「本当は、別れたくなかった。好きなんだ。しーのこと」


分かる。


順也の気持ち、分かる。


わたしは、順也の右手を両手で包み込み、強く強く握りながら頷いた。


「しーが、好きなんだよ。好きで好きで、仕方ないんだ」