恋時雨~恋、ときどき、涙~

「私が、順也の未来を壊した」


静奈の右目から、大粒の涙がひと粒落ちる。


「私が、順也の足を、奪った」


今度は左目からひと粒。


3粒めからは、止めどなく滝のように涙がこぼれ出した。


わたしは、何も返すことができずに固まった。


いつもはおしゃべりのはずの両手が動かない。


「別れようって。順也が」


私、振られちゃった、と静奈の唇が言った。


そして、目にたっぷりの涙を溜めて、静奈は駆け出した。


開け放たれたドアの向こうに、順也の後ろ姿があった。


でも、わたしは静奈の背中を追い掛けた。


エレベーターの手前で追い付き、わたしは静奈の細い腕を引っ張った。


〈別れるって、何で? 順也が言ったの?〉


わたしが訊くと、静奈は我を忘れたように両手を動かした。


「健康な男を好きになれって。幸せになれって。もう、会わないって」


静奈の涙は、夕立よりも激しかった。


「もう、私のこと好きじゃないって! 私は、好きなのに」


静奈の左手の薬指に輝くリングが、いつにも増して眩しく感じた。


「歩けなくてもいいの。順也じゃないと、私は、幸せじゃないのに」


わたしはハッとした。