恋時雨~恋、ときどき、涙~

焼きプリンなんていうおしゃれな物はなく、どこにでも売っているプッチンプリンを3つ買って、わたしはそそくさと病棟へ急いだ。


これが、胸騒ぎというものなのだろうか。


今日の順也と、さっきの静奈が、どうにも引っ掛かるのだ。


忍者迷路のような造りになっている、旧館。


渡り廊下を通り抜け、エレベーターをふたつ乗り継ぎ、更に枝分かれした廊下を小走りで戻った。


順也の病室の前に到着し、ドアを開けようとした時だ。


突然、ドアが開いて、飛び出して来た静奈と衝突してしまった。


静奈が飛び出して来た勢いは凄まじく、わたしは廊下に尻もちをついてしまった。


床に、プリンが3つ散らばった。


ひとつ拾い、ふたつめを拾い、みっつめのプリンに手を伸ばした時、先に静奈が拾ってわたしに差し出した。


「ごめん、真央、大丈夫?」


わたしは笑って頷いた。


カップの底の焦茶色のカラメルソースが、カスタードの部分とぐちゃぐちゃに混ざっている。


それを手に取り、静奈の顔を見て、わたしは息を呑んだ。


静奈は遥か彼方を見るような、魂が抜けたような殺風景な瞳をしていた。


懸命に、涙を堪えているようだ。


静奈の両手が、震えながら言った。