恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈わたしは、心臓じゃなくて、耳が悪いんだよ!〉


それを訳して、順也の唇が動く。


「わたしは、心臓が悪いんじゃない。耳が悪い」


健ちゃんは固まったまま、動く気配すらない。


〈さっき、亘さんと会ってきた。全部、きいた。果江さん、日本に帰って来るんだって〉


健ちゃんの手から、コンビニの袋か落ちた。


順也の好きな焼きプリンが、床を転がる。


健ちゃんは遠い目をした後、ズボンのポケットからスマホを取り出した。


亘さんに電話をしようとしているんだ、と何となく分かる。


でも、健ちゃんは手が震えて、うまくボタンを押せずにいた。


見ているこっちが、気を揉んでしまうほどだ。


スマホに赤ちゃんライオンのストラップが揺れている。


動揺する健ちゃんを見ているのが嫌で、たまらなかった。


わたしは、健ちゃんの肩を鞄で叩いた。


「痛い……」


わたしを見つめる健ちゃんの目に、涙が滲んでいた。


「果江……」


確かに、健ちゃんはその名前を口にした。


わたしの目を見つめながら。


わたしは、健ちゃんの肩を突き飛ばして両手を動かした。