恋時雨~恋、ときどき、涙~

これでいい。


わたしは、メモ帳とボールペンを鞄に押し込んだ。


病室を出ようとした時、健ちゃんがわたしの肩を引っ張った。


「嘘、つくなよ。おれのこと知りたいって、一緒に居たいって言ったのは、嘘だったのかよ」


わたしは、頷いた。


「嘘だ。本当のこと言え、真央」


健ちゃんの挑発的な目を見て、わたしの頭に血が上った。


こめかみの辺りが、火傷したように熱い。


わたしは、健ちゃんの後ろにいる順也に向かって、指を動かした。


〈か、え〉


指文字を使って、乱暴に、その名前を伝える。


か。


え。


「何、それ」


と健ちゃんが首を傾げた。


順也の唇が動く。


「か、え」


健ちゃんが順也の方を振り向き、目を大きく開いたまま固まった。


やっぱり、亘さんの言っていた通りだ。


その名前に、健ちゃんはすぐに食い付いたのだ。


やっぱり、忘れていなかった。


わたしは、順也に〈通訳して〉とお願いした。