恋時雨~恋、ときどき、涙~

あのさ、健ちゃん。


果江さんが、日本に帰って来るよ。


良かったね。


今度こそ、幸せになってね。


どうして、そう言ってあげることができないのだろう。


だから、もう、こんなふうに毎週会うのはやめよう。


そう伝えて、笑えばいいだけなのに。


ボールペンを握る右手に、不快な汗が滲む。


【けんちゃんといると つかれる
 くちびる読むのがめんどくさい
 手話できないし】


メモ帳を見た健ちゃんは、悲しそうな顔をしていた。


ばかばかしい。


そんなの、わたしの真っ赤な大嘘なのに。


健ちゃんといると、楽しい。


大きな口を読むのも、メモ帳に気持ちを書くのも、全然、苦じゃない。


本当は、もっと、いろんな所に出掛けたい。


もっと、健ちゃんを知りたい。


健ちゃんが教えてくれる音に、わくわくしたい。


でも、わたしは右手に嘘をつかせ続けた。


【もう、会いたくない】


健ちゃんは怒る事はしなかったし、わたしを睨むような事もしなかった。


ただ、悲しい目をしていた。


【つまらない】


メモ帳を見ては、ただじっとしてうつ向いていた。