恋時雨~恋、ときどき、涙~

肩を叩かれたけれど、わたしは絶対に振り向かなかった。


わたしの前に立った健ちゃんは、ムッとした顔をしていた。


そして、うつ向いたわたしの額を、人差し指で突き上げた。


「何、その態度。わざとらしんけ」


わたしは、健ちゃんを睨み付けた。


だって、わざとしているのだから、わざとらしくて当たり前だ。


順也が心配そうな顔で、わたしを見つめていた。


「おれ、何かした?」


健ちゃんの唇を読んで、わたしは首を振った。


そして、鞄を手にして、順也に〈帰るね〉と手話をして立ち上がった。


「待って、真央」


順也が何かを言いたそうに両手を動かしたけれど、わたしは急いで病室を飛び出した。


でも、すぐに追い付かれ、健ちゃんに腕を掴まれた。


「送ってくんけ。暗いし、雨降ってて、危ねんけな」


わたしは、健ちゃんを睨み付けて、その手を乱暴に振り払った。


健ちゃんは、ますます不機嫌な顔をした。


「真央」


眉間に、深いシワができている。


「意味が分からねんけ! 言いたい事があるなら、言えよ!」


周りに居た看護師さんたちが、いっせいにわたしたちを見つめる。