恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、順也の病室の前に立っていた。


夕飯の匂いが残っている病棟の廊下は、温かくて安心できた。


病室のドアの窓から中を覗き込んでみると、順也が顔を歪めていた。


ベッドから車椅子に移乗する練習をしている。


順也は、そういう人間だ。


何事にも前向きで、誰も見ていないところで努力をする。


すぐに諦めてばかりのわたしとは、まるで正反対の生き方をしている。


わたしが月なら、順也は太陽のような人間だ。


順也の生き方は眩しい。


滲んだ涙を拭い、わたしはドアを開けた。


ドアが開いた音に気付いたのか、順也が振り向いた。


危ない!


順也はバランスを崩し、よろけて、そのまま床に転んでしまった。


わたしはベッドに鞄を投げ出して、順也の元へ走った。


〈ごめんね、驚かせちゃった〉


わたしが肩をすくめると、順也は恥ずかしそうに両手を動かした。


「戻って来たの? 情けないところ見られちゃったなあ」


そんなことない。


わたしは微笑んで、首を振った。


順也の両脇を抱えて、自分よりひと回り以上も大きな身体を支える。