恋時雨~恋、ときどき、涙~

【これから手話をします
 わたしからだと言って、けんちゃんに同じ手話をしてくれません か】


「ああ、分かった」


亘さんは、にっこり微笑んで頷いた。


「教えて」


わたしは、ゆっくり両手を動かした。


左手の甲を上に向け、右手の手刀で1回、叩く。


そして、同時に頭を下げた。


〈ありがとう〉


亘さんも、わたしを見よう見まねで、2度3度とその手話を繰り返した。


「この手話、どんな意味なの?」


亘さんが訊いてきたので、わたしはメモ帳に書いた。


【けんちゃんに、きいてください】


「そう。健ちゃん、分かるんだね。その手話」


わたしは、しっかりと頷いた。


亘さんは涙ぐみながら、何度も「ごめんね」とわたしに頭を下げていた。











カフェを出ると、小雨が霧雨に変わっていた。


やわらかい、雨だ。


まるで春雨のようで、絹糸のような繊細な霧だ。


わたしは、開きかけていた傘を閉じた。