恋時雨~恋、ときどき、涙~

夕立のせいでメモ帳が湿り、字がうまく書けない。


「どうした?」


健ちゃんが、大きな手でメモ帳に傘を作ってくれた。


【夕立はどんな音?】


「ザー」


健ちゃんが大きな口で言ってくれているのに、夕立のせいでうまく読み取れない。


首を傾げてみせると、健ちゃんはわたしに顔を近付けて言った。


「ザー。読める? ザー」


わたしは頷いた。


そして、雨の手話をした。


両手の甲を健ちゃんに向けて、10本の指を下に下ろした。


ザー。


健ちゃんの唇の動きに合わせて、わたしは両手を動かし続けた。


わたしたちは夕立に打たれびしょ濡れになりながら、波打ち際で笑った。


熱い、夕立だった。


健ちゃんが空を見上げて微笑んだ。


西の空が明るい。


夕立がやみ、夕方独特の雨上がりの空が広がる。


「真央のせいだんけな。すぐ、車に戻ってたら、濡れなくて済んだのにな」


健ちゃんが、雨に濡れたわたしの頬をつねった。


わたしも負けずに、健ちゃんの頬をつねり返した。


「本当に、負けず嫌いだんけ。かわいくねんけ」


余計なお世話だ。