恋時雨~恋、ときどき、涙~

「真央の目に映る景色は、きれいなんだろうな」


まさか。


そんなことはない。


絶対、音があふれている世界の方が、きれいに決まっている。


わたしは首を振った。


でも、健ちゃんはずっと笑っていた。


「真央の音になりたい」


健ちゃんの唇を読んだわたしは、また、瞬きをすることができなかった。


「おれ、真央の音になりてんけ」


西の空に黄緑色の稲妻が走り、突然、風がやんだ。


つめたい。


わたしは、その時に、やっと瞬きをした。


幾つかの雨がひと粒、ふた粒、わたしの頬に落ちて細かく散った。


健ちゃんが、両手を広げて曖昧な色の空を仰ぐ。


「雨、だんけ」


水面に小さな円が、幾つも幾つもできていた。


わたしと健ちゃんが慌てて車に走り出した時だった。


まるで、バケツをひっくり返したような水が、空から降ってきた。


でも、西の上空は晴れていて、水平線に沈む夕陽が眩しく輝いている。


きれいだ。


厳かで、美しかった。


「夕立、だんけ」


健ちゃんが、わたしの手を握って駆け出した。


でも、わたしはその手を振り払い、メモ帳に書いた。