恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈本当に、行きたくない〉


「大丈夫だよ。みんな、優しいから。それに、順也の友達だよ」


頑なに首を振るわたしにしびれを切らしたのか、静奈は強引にわたしを車から引きずり降ろし、手を引き駆け出した。


静奈の手を振りほどくことなら、簡単だ。


でも、わたしはそれをしなかった。


波打ち際に到着すると、そこには初めて目にする人たちがいて、わたしに微笑んでいた。


大きな黒い鉄板に、山盛りの焼きそば。


麺と麺の隙間から、入道雲のような威勢の良い湯気が立ちのぼっている。


肩を2回たたかれて顔を上げると、横で静奈が唇を動かし始めた。


「この子は、武内真央(たけうち まお)です」


わたしは、静奈の唇をじっと見つめた。


「私と順也と同じ18歳。仲良くして下さい」


その声を聴くことができないので、わたしはこうして唇を読み取るのだ。