恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんが教えてくれる音には、いつも楽しいおまけがついてくる。


わたしは、わくわくしていた。


水平線が、カメラのフラッシュのように光った。


これが、わたしにとっての雷だ。


わたしは、雷が好きだ。


お母さんや静奈は、怖いから雷が嫌いだという。


でも、わたしは好きだ。


きれいだから。


一瞬だけ凄まじい光を放った、水平線。


塩分を含んだ、辛い匂いの潮風がわたしの頬を撫でる。


健ちゃんが間抜けた埴輪のような顔をして、わたしの肩を叩いた。


「雷、怖くないのか?」


わたしは頷いた。


【きれいだから好き】


「だって、落ちるかもしれないんだぞ。ドーンて」


健ちゃんは大袈裟なジェスチャーをして、目を大きくした。


ドーン、か。


【花火とおなじ音なんだね
 かみなりがもっと好きになった】


メモ帳を見せると、健ちゃんはやわらかく微笑んだ。


そして、わたしの頬にそっと触れた。