恋時雨~恋、ときどき、涙~

ついさっきまで、本当にきれいな夕陽が海に落ちていたのに。


突然、湿った突風にあおられた。


健ちゃんが、わたしの肩を叩く。


「今、すごい雷だったな」


そう言って、健ちゃんはあっと口をつぐんだ。


わたしが首を振ると、健ちゃんは八重歯を見せて笑った。


「ごめんな。すっかり忘れてた。真央には、聴こえないもんな」


そして、わたしの両肩に掴みかかり、身体を前後に揺すってきた。


「ゴロゴロ! ドーン!」


何かを叫んで、健ちゃんが黒い雲を指差した。


「雷の音。ゴロゴロ」


わたしはメモ帳に書いた。


【オロオロ?】


健ちゃんが吹き出した。


「オロオロしてどうするんけ。そんな音してねんけ」


健ちゃんは、わたしからメモ帳とボールペンをひったくるように奪った。


【ゴロゴロ】


へえ。


雷は、そういう音なのか。