恋時雨~恋、ときどき、涙~

「言いたいこと、我慢するな。鼻が伸びるんけ。書いてみろ」


わたしは健ちゃんをきつく睨んだあと、メモ帳に気持ちを殴り書きした。


【けっきょく
 けんちゃんも、わたしをかわいそうだと思ってる】


それを見た健ちゃんはあっけらかんとして、わははははと笑った。


「そんなこと、思ってねんけ」


【ウソ】


健ちゃんは、自分の口元を指差して「きけよ」と言った。


「そういう意味で、言ったわけじゃねんけ。友達以前の、問題」


健ちゃんは、もっと大きな口でゆっくり続けた。


「友達、とか、耳が聴こえない、の前に、真央は女の子だんけ」


わたしは、瞬きを忘れてしまった。


眼球が渇く。


それくらい、健ちゃんの笑顔が印象的だった。


「おれ、もっともっと、真央のこと知りたい」


そう言って、健ちゃんはわたしからメモ帳とボールペンを優しい力で奪った。