恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、健ちゃんを睨んだ。


積乱雲が、水平線の向こうで黒く広がり始めていた。


健ちゃんが、わたしの両肩を掴んできた。


「勘違い、するな。おまえ、何も分かってねんけ」


分かっていないのは、健ちゃんの方だ。


健ちゃんは、他の人と違う目で、わたしを見てくれているんだと思っていたのに。


わたしの自惚れだったのだろうか。


耳が聴こえない自分の立場を、よく考えなさい。


結局、健ちゃんもそう言いたいのだろう。


悔しかった。


わたしは、メモ帳に自分の気持ちを書こうとしたけれど、やめた。


もう、はなはだ、めんどくさくなったのだ。


悔しくて、悲しかった。


やっぱり、遊びになんて来なければ良かった。


惨めだった。


すぐに言い返すことすらできない、機能を果たせない唇と声に、腹がたった。


わたしは、健ちゃんの両手を乱暴に振り払い、睨み付けた。


わたしは、感情をこうすることでしかぶつけることができない。


悔しくて、情けなくて、涙があふれてしまいそうだ。


うつ向いたわたしの右頬を、健ちゃんの指が優しい力でつねった。