恋時雨~恋、ときどき、涙~

なんで! 、と反抗するような目付きをして、健ちゃんの肩を強く突き飛ばしてやった。


健ちゃんは呆れたように表情を歪めて、溜め息を落とした。


「何もなかったから、いいけど。あの男が、本気でキレたら、どうする気だったんだよ」


わたしは、ポシェットからメモ帳を取り出した。


【わたし
 そんなに弱くない!
 よっぱらいなんか
 こわくない!】



「そういう事じゃなくて。もし、おれが気付かなかったら、真央は」


わたしは、最後まで健ちゃんの唇を読まずに、メモ帳にボールペンを走らせた。


【助けてほしいなんて言ってない
 1人でも大丈夫だった】


海水に濡れた砂が、波と一緒にわたしの足元に打ち付ける。


健ちゃんは不機嫌な顔をして、水平線を見つめている。


夕陽がとろけた波は穏やかに凪いでいるのに、わたしの気持ちは津波のように荒れ狂っていた。


わたしは、メモ帳に汚い乱雑な文字を書いた。


【友達だからって、そこまで心配してほしくない】


それを読んだ健ちゃんは眉間にシワを寄せて、そのページを破り、丸めて海に捨てた。