恋時雨~恋、ときどき、涙~

その時、大きな背中がわたしの前に現れた。


男の人の腕をほどいてくれたのは、健ちゃんだった。


掴まれていた部分には、男の人の指の跡がくっきりと浮かんでいた。


健ちゃんが、男の人に何かを言ったようだ。


まさか、ケンカになる?


わたしは、健ちゃんのTシャツの裾を引っ張った。


でも、わたしの心配は全く無意味だったようだ。


男の人は急に上機嫌になったようで、にこにこしながら健ちゃんの肩を叩いた。


そして、挙げ句にはわたしの肩も馴れ馴れしく叩いて、仲間たちのところへふらふら歩いて行った。


わたしは、拍子抜けしてしまった。


たぶん、相当まぬけな顔を、わたしはしていたのだと思う。


健ちゃんが、わたしの顔を指差して笑った。


わたしがフンと態度を悪くすると、健ちゃんが急に真面目な顔をした。


「負けん気も、ほどほどにしろよ。女のくせに、男にケリ入れたりするな」


なんで、わたしが怒られなければいけないのだろうか。


わたしは、何も悪いことはしてないのに。