恋時雨~恋、ときどき、涙~

右手を高く上げて砂浜を駆けて行った順也の背中に、わたしは微笑んだ。


わたしは、順也に、心から感謝している。


ありがとう。


その5文字を一生伝え続けても足りない。


わたしのお母さんと、順也のお母さんは、幼馴染みだ。


それでいて、家も隣同士で、順也は昔からわたしの面倒を見てくれている。


幼い頃、わたしと一緒に隣町の教室に通って手話を勉強してくれた順也は、お兄ちゃんのような存在だ。


近所でも有名な悪ガキだったのに、今ではすっかり立派な新社会人の顔付きをしている。


わたしが海を眺めていると、今度は静奈がやってきた。


静奈は向こうの砂浜を何度か指差して、無邪気に笑った。


「行こうよ」


静奈の唇を見つめながら、わたしは背中を丸めた。