恋時雨~恋、ときどき、涙~

大きな大きな水槽に、わたしは貼り付いた。


分厚いガラス越しにペンギンがやってきて、わたしの目の前を気持ち良さそうに泳いで行った。


空を飛ぶ鳥のように、優雅に泳いでいる。


健ちゃんに肩を叩かれて見てみると、向こうにペンギンが順番に水面に吸い込まれていくのが見える。


白いしぶきを上げて水中にダイブしている姿は、なんとも愛くるしかった。


健ちゃんがメモ帳を借して、とジェスチャーしてきた。


【ドボン】


「ペンギンが水に飛び込むと、ドボンて音がするんけ」


ドボン。


わたしは微笑んだ。


健ちゃんからメモ帳とボールペンを奪い、書いた。


【もっと いろんな音を教えてほしい】


「おやすいごようで」


そう言って八重歯を見せて笑った健ちゃんは、わたしに、たくさんの音を教えてくれた。


アヒルは、グワグワ。


ゾウは、パオー。


ヒツジは、メエー。


別に訊いていないのに、メエーと鳴く真似をするコツまで教えてくれた。


鼻の下を伸ばして、白目をむいて言うと上手にできるらしい。


健ちゃんと居ると、わたしの目にはたくさんの音が見えた。