恋時雨~恋、ときどき、涙~

決して、世界でいちばん最高の恋とは、お世辞にも言い難く。


運命の糸に導かれるような恋とは、ほど遠く。


必死に頑張る、恋だった。


ひと目ぼれではなく、恋愛ドラマのような華やかな恋とも言えなくて。


必死にしがみついて、たぐりよせて、奥歯を噛んで我慢して。


歯を食いしばって、涙を飲んで、挫折を繰り返した。


だけど、どんなに苦しくても切なくても、諦めきれなくて。


あがいて、もがいて、たくさん泣いた。


恋しくて、恋しくて、ただ、切なくて。


映画のように仕組まれたようでもなければ、出会い頭にすとーんと落ちるというわけでもなく。


一瞬で心を奪われるような衝撃的な出逢いでもなく。


小さな子供が、生まれて初めて子犬に触れるように、おっかなびっくりから、恋が始まった。


どこにでもあるありふれた日常の片隅にぽつんと咲いている、たんぽぽのような。


小さな小さな、始まり方の恋だった。


恋のつぼみを大切にしてみたら、芽が出て、膨らんで。


だけど、なかなか花は咲いてくれなくて。


想いは募るばかりで。


じれったくて、はがゆくて。


それでも、わたしにとっては、大きな恋だった。


生まれた時から無い物ばかりで、諦めることも我慢することも慣れっこだったから、だから、この恋も諦めるはずだった。


でも、できなかった。


好きな人を想うこの気持ちだけは、何よりも真実だったから。


「真央が居ないのに、幸せになれるわけがねんけな。意味がねんけ」


この恋は、誰にも負けない恋だと思ったから。


「一緒に、幸せになろう。真央」


わたしはしっかりとメッセージカードを握りしめた。