恋時雨~恋、ときどき、涙~

目を閉じたままの健ちゃんの肩を叩く。


「……え」


ゆっくり、健ちゃんが目を開く。


わたしは、それを差し出した。


「……お」


一瞬目を見開いた後、健ちゃんはライオンみたいに口を大きく開けて、


「おおおお!」


そして、キラキラの笑顔になった。


「気が合うな! うさぎ!」


健ちゃんはアスファルトに貼りついているメッセージカードを指さして、


「以心伝心だな!」


にっ、と白い歯をたっぷりとこぼした。


どうやら、ライオンとうさぎは、気が合うものらしい。


本降りになっていた雨が、少し弱くなった。


絹糸ではないし、かといって、霧雨というわけでもなくて。


ふわふわと風に揺れるたんぽぽの綿毛みたいだ。


ふわふわの雨だ。


空を見上げて視線を健ちゃんに戻すや否や、わたしは少し、緊張した。


心臓が、ジャンプしている。


健ちゃんがわたしを見つめていたからだ。


まっすぐ、見ている。


心の中まで見透かされているようで、こそばゆい。


2年ぶりの彼は、また少し、大人の男になっていた。


照れくさくて、どこか恥ずかしくて、目のやり場に困る。


ふい、と目を反らそうとしたわたしに、健ちゃんはやわらかく微笑んだ。


「遅くなって、悪かった。不安にさせてばかりで、ごめん」


わたしはふるると首を振った。


なぜか、泣けてくる。


この2年間待ち焦がれていた人が確かに今、目の前にいるのだ。


「2年も待たせて、ごめんなさい。許してください」


びしょ濡れの大きな手が、ひとつひとつ言葉を縫い合わせるように動く。


「なんか、おっちょこちょいのシンデレラが、これ。ガラスの靴、落として行ったんけな」


これ、と健ちゃんはポケットから何かを取り出して、


「ていうか、落として行ったんじゃなくて」


握っていた手を開いた。